お気楽に、きらきらしたものを集めます。管理人名前=きらく。かわいいグッズに目がない。一応大学卒業が決定したらしい。


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大人になったピーターパン その2

(前のつづき)

 集会所にはまだ誰も居なくて、静かで暇だったのでAさんにメールした。カバンを守ってくれてありがとうと書いた。すると集会所のドアが開く音がして、Aさんも集会所にやってきた。隣にちょこんと座るAさんは、本当に普通の男の人だった。エキセントリックだった数ヶ月前の姿が、嘘みたいに男っぽくなっていた。その後Aさんはちらっと携帯電話を見て、やっと私からの携帯メールに気がついたみたいだった。「携帯メールを打つのは苦手で、口頭で返事させてください」という。そうだったのか。今まで相当長いメールをくれていたけど、無理させていたのかなぁとちょっと思って申し訳なかった。それとも、本来の姿に戻ったのかなぁ。普通男の人は長文メール打たないしなぁ。

 集会所の本棚にあった本を読んでいると、隣でAさんが絵画評論の本を読み出す。私は、Aさんの、医学生なのにこういう本を読むところが好きだ。私はどの本にも興味がわかず、中年の小説家がトルコ風呂で出会った女にハマっていくという刺激的な小説(何故そこにあったのか)をパラパラめくったりしていた。そういえば、長崎の大学から来た医学生が酔いながら昨夜Aさんに言ってたっけ、
「Aさんって変わってるよな。休学しても風俗に行かないのが変わってるよ」
って。休学したら普通風俗に行くのか、男は。その方がよっぽど私から見たら変だけど。
でもそれに対して、
「いや、私は大塚愛の・・・ですから」
と、手で二つの丸を作って返したAさんはやっぱり変わっているよ。自分はチェリーなんとやらであるという意味らしい。あ、Aさんの名誉のために言えば、彼は中性的で、芥川龍之介系の、文学青年をそのまま絵にしたような魅力ある美青年ですが。

 そのあと集会所で私達は眠ってしまい(徹夜した後静かに読書なんかしてたら寝るのは当たり前である)、朝ごはんの時間になって目が覚めた。そのあとはバタバタしていて、直接話はほとんどしなかった。
 そしてまた私達の学校のチームは、揃って地元に帰還したのだけど、帰り道ずっと私は、Aさんのことを考えていた。どこか心に違和感が残る。

 思ったのは、Aさんはピーターパンみたいだったなぁということだ。
 でも、私達はいつまでもネバーランドにはいられない。

 無邪気で頼りなくて個性的で危なかったAさんも、いずれ普通の大人になるんだろうか。
 お金や仕事や、女のことで忙しくなって、もう私としりとりやにらめっこをしたりはしてくれなくなっちゃうんだろうか。全く実用的ではない小説を読むのをやめて、大事なものをしっかりその手で守る男の人になるんだろうか。自転車を全速力で漕ぐのをやめて、自動車に乗って、チェリーなんとやらをやめて、お金で女の人を買えるようになっちゃうんだろうか。
 私が会いたいと言っても急には会えない、忙しい社会人になるんだろうか。

 突然忙しくなる生活や、唐突に始まる数人での臨床実習にAさんが馴染めるかどうか、凄く心配な一方で、彼が出会った時と比べて劇的に変化していることに対する切なさが拭いきれない。

 出会った頃、私はAさんのことを好きになりそうだった。
 でも彼がピーターパンだから怖かった。その気持ちを抑えた。
 だけどむしろ、もはやピーターパンじゃなくなったAさんを、好きになれるかはわからない。
 いや、本当は、どっちのAさんも凄く好きで、でも新しいAさんは手の届かないところに行っちゃう気がして、どうしていいかわからない。


 ねぇウエンディ、ピーターパンが大人になってしまうよ、どうしよう。
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by kirakirakiraku | 2005-06-26 23:45